24th December 1982-後編-

あおい


・・・(数時間後)・・・


 車のウインドウをノックする。
 開いたウインドウからラガーが眠たそうな顔を出して言った。

「あれ? ボギーさんなんだかいつもと感じが違いませんか?」
「おまえそれ、ジプシーのスーツ着てんじゃないのか?」

 ドックが気が付いた。
 ファッション通を自称するだけに、目ざとい。

「ちょっとね、いろいろあったんですよ、いろいろ。」
「なんだよそれ?」
「そっちこそ何食ってんですか二人して!」
「バカ、声がでかいぞ!」

 ドックもラガーも、口から細いプラスティックの棒が出てる。

「聞き込みに行ったパブのお姉ちゃんがどっさりくれたんだ。
 パーティーの景品の残りだとさ。
 置いてくから好きなだけ食っていいぞ。」
「おにーさんイイ男だからあげる!ってもらったんだそうですよ。」
 ラガーが女の声真似でからかう。
「事実だ事実。ほい、ごちゃごちゃ言ってないで交代交代!」

 眠たそうなドックとラガーと交代して、
 俺が運転席に、ボギーが助手席に乗り込んだ。

「あ、ボギーさん、ミルクとイチゴの、下さい!」
「ミルクとイチゴ? 暗くてわからん、──ほれ!」
「え〜? これどっちも普通のじゃないですか。」
「あ? 文句言わない! おこちゃまはもう帰って寝なさい!」
「ちぇっ。じゃあ寝ないでしっかり仕事してくださいね、
 オトナのボギーさん!」
「ばっちり寝てきたからな、今日は大丈夫だ。な、ジプシー!」

 俺は返事の代わりに片手を上げた。
 確かにボギーはばっちり寝てた。
 俺の隣りで、ものすごいいびきをかいて。

「今んとこ特に動きはなかったけど、油断するなよ。
 始発で移動することも考えられる。」
 ドックの真面目な声に、ボギーが了解、とだけ応えた。
「じゃあな、メリークリスマス。」
 ドックはそう言って、俺たちが乗ってきた車に向かった。


 二人の車が見えなくなるとボギーが言った。

「なんか懐かしいな。ガキの頃食ったことあるぞこんなの。
 何味がいい?」
「俺はいいよ。」
「まあそう言うな。お、俺はこれにするぞ、サンタクロースのイチゴ味。
 せっかくだからジプシーも食え!」

 ボギーはそう言ってドックから渡された袋に手を突っ込んで
 一本取り出すと、ご丁寧に中身をパッケージから出して俺に渡した。
 ツリーの形をしてる。トナカイやらサンタクロースよりはましだ。
 ──仕方ないから、口に入れた。

「カメラ持ってくりゃよかった。」
「──?」
「おまえがペロペロチョコしかもミルク味を食っとるとこなんか
 そうそう見られんからな。」
「バカ。──写真は好きじゃないって言ったろ。」
「生きとる奴の写真ならかまわんだろ。
 いくらでも顔、思い出せる。」
「思い出すも何も、毎日顔合わせてるじゃないか。」
「それもそうだな。見飽きるぐらい。ガハハハ。」
 ボギーは笑って、自分もチョコを頬ばった。

「うまいなこれ。
 ──そういえば、メリークリスマスのメリーってなんだ?
 ひつじの飼い主か?」
「え──? merryそのものは "陽気な" とか "楽しい" って意味で、
 メリークリスマスっていうのは、"良いクリスマスを" って
 ことじゃないのか。」
「ほー。"よいお年を" とおんなじか!」
「そういうこと。」
「ドック、意味わかって言ったんか?」
「さあな。少なくともこれから徹夜で張り込みする相手に
 言うセリフじゃないことだけは確かだ。」
「俺はそうでもないぞ! おまえと張り込みでメリークリスマス!」
「おい、声がでかいよ。」
「すまん、地声だ!」
 ボギーが俺を見て、にかっと笑った。
 ほんとにおかしな奴だ。 
「いいからちゃんと前見てろ。」

 チョコレートは子供向けで、やけに甘かった。

 クリスマスか…。
 最後のプレゼントは、本物そっくりの、パトカーのおもちゃだった。

 あの時は本物に乗ることになるなんて、思ってなかった。
 

 俺のところにもサンタクロースが来てくれたのは、
 その年までだった。
 ──思い出したのは、甘すぎるチョコレートのせいだ。



 来年のクリスマス、俺はどこで何をしてるんだろう…。
 そんな柄にもないことまで頭を過ぎったのは
 隣で無邪気にお菓子の袋を漁るボギーのせいか…。

 チョコはもういいから、ちゃんと前見てろ。
 それじゃラガーのこと言えないぞ。


 でも。たぶん俺はこの男に救われてる。だから、

 ──"今" は、隣りの同期に、Merry Christmas.


                    -おしまい-


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- あ と が き -

風邪で寝てたらもーそーが …(滝汗)。実際はクリスマスの時期に「赤い憎悪」の事件があったのですが、その夜の出来事ということで…。それでも無理があるかも…です( ̄▽ ̄;)。


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