24th December 1982-中編-

あおい


「ジプシー、おまえ、両親の写真は置いとらんのか。」
 部屋を見渡して、出し抜けにボギーが言った。
「この前来たときもお参りしようと思ったら見当たらんかったぞ。
 もしかして、持っとらんのか?」
「──いや。…持ってはいるよ。
 置いてないだけで。」
「うちはな、姉ちゃんが額にいろいろ飾るんだ。
 たぶん今日あたりは赤だの緑だの、リボンなんか飾られとるはずだ。
 で、その額に向かって俺のドジばかり報告しとるんだきっと。」

 なんだか想像できる気がする。
 でもボギー。おまえがお姉さんに自分の失敗を話さなければ
 そういうことにはならないと思う…。

「お姉さん、元気なのか?」
「ああ元気にしとる。手紙がよく来るからな。」
「そっか。」

 俺は煙草の箱の底を叩いて一本弾き出し、ボギーの前に差し出した。
 ボギーは大げさに、すまなさそうに両手で俺を拝んでから
 それを引き抜いた。

「すまんな。ポケットの中で煙草もビール漬けだ。」
「ボギー。念のため聞くけど、その濡れた煙草、
 ちゃんと出してからシャツ洗濯したんだろうな?」
「──あ…。」

 思わずため息が出た。

 案の定、洗ったはずのシャツには煙草の細かい葉が
 あちこち着いていた。
 ボギーがそれを払い落としている間に俺が洗濯機の掃除をして、
 きれいになった洗濯機でもう一度ボギーの服を洗った。


 コーヒーを淹れ直し、仕切り直しの煙草に火を点ける。
 二人で煙を吐いていると外の喧騒が遠くに感じた。

「ホントにすまんな、何から何まで。」
「いいよ、今日のはおまえが悪いわけじゃないだろ。
 ──洗濯機以外は。」
「面目ない(^_^;)」

 二人で、笑った。

「なあ。なんで写真、置かんのだ?」
「ん──?」
「いや、俺は自分の部屋に置いとるからさ。」
「──写真か。──好きじゃないんだ。」
「どうして?」

 深く吸い込んだ煙を、吐き出した。
 …ボギーになら、いいか…。

「──写真の顔しか、…思い出せなくなるから。」

 ボギーは珍しく、ちょっと考え込んでいるようだった。

「──そう言われてみれば、そうかも知れん。
 思い出すとき、写真の顔が真っ先に浮かぶわ。そういえば。
 なるほど、そういうわけか。」
「ん」
「でも、持っとるならよかった。
 もしかしたら持っとらんのかと思っとったから安心したぞ!俺は!」
「なんでお前が安心するんだよ、おかしな奴だな。」

 褒めたわけでもないのに、
 おせっかいでお人好しな同僚は、
 俺に思い切りの笑顔を見せた。

「十二時半か。交代にはまだ時間あるな。」
「ああ。──すまんが、ちょっと横になっていいか?
 体が温まったら、急に眠く…ふぁあ〜〜。」

 ボギーのあくびを見たら、俺もつい、あくびが出た。

「お? おまえのあくび、初めて見た気がするぞ!」
「よけいなこと言ってないでいいから寝ろ、
 風呂上がりなんだから布団で寝ないと風邪引くぞ。」
「おまえは?」
「俺はここで寝るからいいよ。」
「おまえんちなんだからおまえが布団で寝ろ!」
「ボギーこそ今のうちにちゃんと寝とけよ。
 張り込み中に寝てばかりいられるよりましだ。」
「──( ̄▽ ̄;)」

 押し入れから布団を出していつもの場所に敷く。

「布団ひとつしかないんか?」
「──ない。」

 あるはずがない。
 今まで必要なかったから。
 それに、荷物は少ないほうがいい。

「ちょっとの間なんだ、一緒に寝りゃいい。
 おまえに風邪引かれたら俺がまた怒られる。」

 そう言ってボギーは俺に枕を押し付けて、
 自分は腕枕でとっとと寝てしまった。

 ボギーが強引なのはいつものことだ。
 俺はため息をついて、ボギーに毛布をかけた。
 それから目覚ましを三時半にセットして、
 毛布にくるまって横になった。

 ──ボギーの隣りで。

 誰かとひとつの布団で寝るなんて、子供の時以来だ。
 落ち着かないけど、…まあ、仕方ない…。


*そして<後編>へ…




- あ と が き -

後編も読んでね (^_^;)。


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