24th December 1982-前編-

あおい


「おいジプシー、洗濯機も借りとるぞ!」

 俺の部屋は野球場じゃない。
 そんなに馬鹿でかい声で言わなくても聞こえるよ。
 おまけに風呂場だからエコーまでかかってる。

 酒臭いボギーを風呂場に押し込んで座ったとたん、
 なんだか体が急に重くなった気がした。
 煙草を一本だけ吸ってまた立ち上がる。


 キッチンで湯が沸くのをぼんやり待っていると
 風呂場へ続くドアが開き、
 今度はすぐ近くで馬鹿でかい声がした。

「はーさっぱりした! パンツ新品だったんか、悪かったな!
 ちゃんと洗って返すからな!」

 一式俺の服に着替えたボギーが、
 バスタオルで髪を拭きながら出てきた。
 また仕事に戻るからジーパンというわけにもいかず、
 黒のスーツとワイシャツを貸した。

「いいよ、服だけ返してくれれば。」
「そうかっすまんなっ! 
 しかしおまえこんな長いズボンはいて、裾引きずらんか?」
「ボギー、もうちょっと静かに話せ。十二時過ぎてるんだぞ。」
「お、すまんすまん。しかしだな、クリスマスだかなんだか知らんが
 今日なんかどこでもどんちゃん騒ぎだ。気にせんでも大丈夫だ!
 だいたいおまえはそうやって周りに気ィ使いすぎだ!」

 そう言ってる声がでかいんだよ…。

「もういいから座ってろ、髪乾かさないと風邪ひくぞ。
 そのへんにドライヤー…」
「いらんいらん、これで充分だ。」

 ボギーはストーブの前に寝転がって、
 器用に髪を乾かし始めた。
「これがな、一番早いんだ!」

 …まあ、いいけどね。
 やり方はひとそれぞれだから。

「ほれもう乾いた!
 今度試して見ろ、電気代も浮く。」 

 いや、俺は遠慮しとくよ。

 髪の乾いたボギーを座らせて、
 マグカップに入れたインスタントコーヒーを運んだ。

「お、すまんな。
 しかしあいつらのおかげでエライ目にあったぞ!
 思い出したらまた腹が立ってきた!
 ビール瓶なんかで殴りやがって、こっちはズブ濡れだ!
 しかも結局人違いだったとは許せんぞ!」
「でもあの男、あの店には初めてらしいが、
 確かに竜神会の佐々木に似てた。
 指名手配のポスターを見ただけのマスターが
 見間違えても無理ないさ。」
「──まあな、一応…。」

 ボギーは鼻の下をこすった。
 それが癖だと自覚はあるのか。

「でもよく通報してくれたよ、一歩間違えば巻き込まれる。」
「そうだな。善良な市民からのありがたーい通報だ。
 今日はあのマスターに免じて、勘弁してやることにする!」
「そういうことにしておけよ。
 結局ただのケンカだったんだし、
 おまえも怪我しなくてすんでよかったじゃないか。」
「ちゃんと防御したからな。
 …その割になんでかズブ濡れだ。 
 しかしな、そもそもケンカになるまで飲み過ぎるのがいかん!
 あいつらは何でも加減ってものを知らんから、
 いつまでたっても顎で使われるチンピラなんだ!」
「──今日はもう勘弁してやるんじゃなかったのか。」
「…そーでした。」
「コーヒー飲んで、少し落ち着け。」
「あちちちっ!」
「熱いに決まってるだろ、沸かしたばっかりなんだから。」
 ボギーが情けない笑顔を見せた。



*何の事件もないまま<中編>へ続く…




- あ と が き -

無駄に長い、ストーカー小説(滝汗)。ジプシーが普段の3倍ぐらいよく喋るのは、相手がボギーだから(///∇///)。そしてたいした事件もないまま中編へ続く。


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